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2009.04.06 Monday | - | - | -
イカによるハカイ
■Makkenzのアルバム"白くなる時刻"は、日本語ラップ的に何かのターニングポイントではないし、むしろ彼の中で「ヒップホップ」とか「ラップ」が自分のアートに何か関係のあるものなのかさえ疑わしい(実際厳密にはあるのだろうけれど)ので、COMPASSでもレビューする作品の候補には挙がったものの、結局他に誰も希望者が見つからず没になってしまった。個人的にはテーマレビューで適当なテーマに当て込んで掲載するのもあまり気が進まず、コラムの枠でもう少し拡大してお届けしようと考えた次第。

■今作ではトラックも本人が手掛けており、前作以上に濃密な悪夢が展開されるのかと思いきや、1曲目"ボート漕ぎの老人と王子"が始まった瞬間にそのスケッチの饒舌さに唖然とした。切り取られた得体の知れないメロディがループする中に響く低体温のラップ…ともすれば無味乾燥な前衛ゲージュツに陥りがちなアートフォームだが、そんな中でMakkenzの詩と甘ったるい声が醸し出す世界観の芳醇さは奇跡だ。

■「『言葉にならない』ものを表現する」という狙いがあったと語るMakkenzは、しかしやはり言葉を使う。カラスが当たり前のように黄色かったりする不思議な不思議な詩世界は、Makkenzの声を通して映像となり、私たちがいつの間にか惰性で結び付けてしまっていた〈言葉とイメージ〉を次々と切り離して行く。それは「異化による破壊」だと思った。言葉の裏側に何かを解読しようと身構えて聴き始め、「あ〜、何つーかもう、いいやぁー」と力を抜いて、流れてくる音と言葉にだら〜んと身を委ねた瞬間に、何かが崩れ落ちる。

■それにしてもMakkenzはいい声をしていると思う。一般的に言われる良い声質とか、豊かな声質(例えばDaboやHungerみたいな)ではないが、それが少しだけ舌足らずなラップと相俟って醸し出す独特の温度感は、こういうリリックを淡々と歌い上げるのには向いていると思う。彼があの声で「そこに突然テレビ局のクルーが現れた」と云えば、頭の中にふっとその映像が立ち上がる。そういう声だ。

■そんな彼が、13曲目"Crazy Shibuya"で恵比寿・渋谷間にひょこっと出没してしまう。タキラス、宇宙熊、ゴリラ、不発弾処理その他、をこの一曲で、この「東京」という街と結びつけてしまう事は、とても暴力的というか、破壊的な行為だという印象を持った。もしも"Crazy Shibuya"が、もっと聴き手を選ぶようなえげつない曲だったなら、彼の言葉を、私達の生活とは別次元の処で成り立っているひとつのメルヘンとして捉える事も出来たかも知れない。しかし、サビで「久しぶり、ああ、じゃあまた」と歌うこの曲の詩世界だけは、なぜか紛れもなく私達の生活と地続きの処にある様に見え、あらゆる音楽や芸術に対して不謹慎な態度でしか臨めなかった私のような人間にとって、その事はなかなかの打撃だった。Makkenzと彼の紡いだ言葉たちは、この東京という街に繋がっていたのだ。

■「Makkenzは東京の空気感を伝えようとしている」というレビューもどこかで見かけた。確かにそうなのかも知れない。この作品は、東京に住んでいて見た気になっているその街の景色を、唐突なカットでひとつずつぶち壊して、真っ白にして行く。その先に、あなたが何か新鮮な驚きを感じる事が出来れば、"白くなる時刻"と題されたこのアルバムは、実は果てしなくポジティブな作品だと言えるのかも。



文:歪R
(http://blog119.fc2.com/wanir/)
2007.09.18 Tuesday | ジャムパン買って来い。今すぐ。 | comments(0) | -
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2009.04.06 Monday | - | - | -
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